大阪高等裁判所 平成7年(ネ)1205号 判決 1996年9月26日
平成七年(ネ)第一二〇五号控訴人、同年(ネ)第一三〇一号被控訴人(以下「一審原告」という。)
甲野太郎
右訴訟代理人弁護士
海川道郎
同
伊賀興一
同
横山精一
平成七年(ネ)第一二〇五号被控訴人、同年(ネ)第一三〇一号控訴人(以下「一審被告」という。)
大阪府
右代表者知事
山田勇
右訴訟代理人弁護士
稲田克巳
同
吉井洋一
右指定代理人
安藤良彦外七名
主文
一 一審原告の本件控訴に基づき、原判決主文一項を次のとおり変更する。
一審被告は、一審原告に対し、金三九万〇三四〇円及びこれに対する平成五年二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 一審被告の本件控訴を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を一審被告の、その余を一審原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 平成七年(ネ)第一二〇五号事件
1 一審原告
(一) 原判決を次のとおり変更する。
(二) 一審被告は、一審原告に対し、金一五二万〇三四〇円およびこれに対する平成五年二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(三) 訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする。
(四) 仮執行の宣言
2 一審被告
(一) 一審原告の本件控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は一審原告の負担とする。
二 平成七年(ネ)第一三〇一号事件
1 一審被告
(一) 原判決中、一審被告敗訴部分を取り消す。
(二) 一審原告の一審被告に対する請求を棄却する。
(三) 訴訟費用は第一、二審とも一審原告の負担とする。
2 一審原告
(一) 主文二項と同旨
(二) 控訴費用は一審被告の負担とする。
第二 当事者の主張
原判決の「第二 当事者の主張」記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり付加訂正する。
一 原判決七枚目裏八行目の次に行を改め、次のとおり加え、同九行目の順番号「2」を「3」と改める。
「2 現行犯については、刑事訴訟法二一二条一項のほか、同条二項の準現行犯もこれに含まれるところ、本件事情のもとでは、準現行犯にも該当するものであり、この面からも本件逮捕は適法である。
すなわち、藤川は、橋本、山口から、橋本が一審原告から暴行を受けたとの報告を受けており、一審原告が犯人であると呼称されているものであり、その時点において、藤川は既に一審原告の顔等を認知し、また、田中巡査部長が喫茶店にいる一審原告の監視を継続しており、犯人を誤認するおそれはなかったこと、藤川が警察署正門のところで、一審原告に対し、暴行の事実を確認し、本署への同行を求めたのに、一審原告はこれを拒否して逃走しようとしたことからすれば、これらは犯人として追呼されているとき(刑事訴訟法二一二条二項一号)、誰何されて逃走しようとするとき(同条項四号)に該当することが明らかであり、かつ、前記のとおり、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるものであるから、準現行犯としての要件も具備していることは明らかである。」
二 同八枚目裏一一行目の次に行を改め、次のとおり加える。
「3 一審被告は、主張にかかる現行犯逮捕の要件を満たさないことが明らかになったことから、その事態を糊塗するために、準現行犯の主張をなすに至ったものであって、本件において、藤川のなした逮捕は、刑事訴訟法二一二条二項一号及び四号の要件を充たさない。」
第三 証拠
<証拠略>
理由
一 次に付加訂正するほかは、原判決の「理由」一ないし五記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決九枚目表六行目から七行目にかけての「藤井哲治」の次に「、同辻本良夫、同和中善昭」を加え、同一〇枚目裏九行目の「そのような事実はなかった」を「藤川の右のような言動があったことを見ていない」と改め、同一一行目の「信用できない」の次に「なお、一審原告は、一審原告本人が供述するような藤川の言動があったから、一審原告は父親まで呼ぶという異常なことをしたのであり、また藤川は一審原告の父親が来るまでに一審原告の抗議を収めさせる必要があった旨主張するが、この点に関する証人和中善昭及び一審原告本人の各供述によるも、警察署踊り場での藤川の言動に関する一審原告本人の供述部分の信用性を裏付けるものということはできないし(すなわち、一審原告本人は、暴力のことについて、父親に一緒に抗議してもらおうと思って家に電話をかけに行った旨供述するものの、証人和中善昭及び一審原告本人の各供述によれば、左記5のとおり、一審原告は喫茶店から父親に電話して、父親に対し、それまで起こったことを簡単に説明して、どうしたらよいかと言ったところ、父親は一審原告に対しすぐ行くから警察署の門の前で待っとけと言ったことが認められ、右事実に照らせば、一審原告の方から一緒に抗議するために父親を呼び出したとはにわかに認め難いというべきである。)、他に一審原告の方から父親を呼び出したことについてはこれを認めるに足りる的確な証拠はない。」を加え、同一一枚目表一行目の「藤川の右行為に対して」から同二行目にかけての「考え、」までを削除し、同三行目の「父親に電話を掛けた。原告が事情を説明すると、」を「父親に電話を掛け、父親に対し、それまで起こったことを簡単に説明して、どうしたらよいかと言ったところ、」と改め、同一二枚目表六行目の「信用できない。」の次に「また、証人辻本良夫(同証人は当時巡査として河内長野警察署に勤務し、交通相談係で、交通事故の処理を担当していた。以下「辻本」という。)は、当時交通事故係の部屋で、他の交通事故について関係者から事情を聴取していたとき、藤川が橋本及び山口とともに右部屋に入ってきて話をしていたこと、その後藤井が右部屋に入ってきて、山口と話をしていたこと、藤井は藤川に対し「もう一人は、どこにおるんや。」と聞いたところ、藤川は「外です。」と答えていたこと、そのとき、藤川が担当していた事件の内容は、当初、辻本が耳にした若い男性の大きな声、吉岡が辻本に告げた「若い男が年配の人に打ってかかっている。」という言葉と藤川が取り扱っている橋本と繋げて交通事故に絡んだ暴行とか脅迫があると思った旨証言するが、辻本は、右掲記にかかる藤井と藤川との間での言葉のやりとり以外に、事務用の机一つか二つ離れた所にいた藤川、藤井、橋本及び山口らの間で交わされた会話等については判らない旨供述するにとどまり、証人藤川、同藤井が供述するように、藤井が橋本の胸倉を掴んで実演し、橋本に対し右事実を確認したのであれば、辻本において記憶がないというのはにわかに首肯し難いし、右説示にかかる証人橋本及び同山口の各供述と対比しても、証人辻本の供述をもって、証人藤川、同藤井の前掲各供述を裏付けるものということはできない。また、一審原告は、藤井が藤川に対し、一審原告の橋本に対する暴行についても措置するよう指示したことはない旨主張するが、この点に関する証人山口の供述によれば、山口は藤井に対し、交通事故の目撃状況や一審原告の橋本に対する暴行の目撃状況等について説明していたところへ、藤川が来たこと、山口が藤井と話している途中、藤井は藤川とも会話をしていたこと、山口ははっきりそのときのことを記憶しているわけではないこと、山口が記憶しているのは、藤井が藤川に対し、「早う連れてこんかい、何をしてんや、現行犯逮捕やないか」等と言っていたことであることが窺われ、右供述及び警察官が他の警察官に対し、容疑の内容を説明しないで、容疑者を現行犯逮捕をして身柄の連行を命じることは思料し難いことに照らせば、藤井が藤川に対し、一審原告の橋本に対する暴行についても措置するよう指示したことはない旨の一審原告の右主張は採用できない。」を加え、同枚目裏一一行目の「足を挫いて痛いんや」を「足をけがしているからやめてくれ」と、同一三枚目表一行目から二行目にかけての「二回にわたって、手足を突っ張り、後ろにしゃがみ込むような格好をして抵抗した」を「警察署に連行されることを嫌がり、後ろへ戻ろうとして、二、三回にわたって、手足を突っ張り、その場にグーッとしゃがみ込むような姿勢をして抵抗したが、藤川から右腕を、藤井からは左腕を抱えられ、右抵抗を排除して、警察署に連行されたため、一審原告の足が浮いたり、尻が地面に着いたりしながら、一審原告を両側から提げたような格好で、警察署に連行された。」とそれぞれ改め、同一一行目の「信用できない。」の次に「なお、一審原告は、後記五1認定のとおり、右連行の際、右足関節捻挫、右足踵骨骨折の傷害を負ったところ、右傷病は、右足の内反・底屈を強制されたために生じるものであることから(甲四の2、五の1)、右一審原告主張にかかる藤川の暴力によって生じたものである旨の主張するが、右説示のとおり、警察官が一審原告が主張するような暴力に及んだというのは不自然であり、また、逮捕の状況を目撃していた山口が一審原告主張の暴力は見ていないと証言していること、前記認定にかかる警察署に連行されることに対する一審原告の抵抗及び有形力を行使して一審原告の抵抗を抑えて警察署に一審原告を連行した際の状況からして、一審原告に対し内反・底屈を強制するような力が働き、一審原告に右傷病が生じたことを推認できないではないことからして、右傷病の存在をもって、一審原告主張の暴力があったものと認めることはできない。」を加える。
2 同一三枚目裏一一行目の次に行を改め、次のとおり加える。
「(なお、一審原告は、①一審原告の橋本に対する暴行の容疑は、事案の性質上、現行犯逮捕ということは通常考えられないものであったこと、②一審原告が警察署内へ連行された後、正式な逮捕をされた者としての扱いを受けていないとして、右逮捕が行われたことを否認し、一審原告本人の供述にも、これに沿う部分がある。しかしながら、①藤川が橋本に対する暴行で一審原告を逮捕したことは右認定のとおりであること(すなわち、藤川は、右認定のとおり、山口の供述と一審原告が暴行の事実を否定しなかったことから、一審原告を橋本に対する暴行の現行犯人と認めたこと、当時一審原告の住所氏名が判らなかったし、一審原告が逃走しようとしたこと、右暴行は年寄りに対して交通事故の責任を暴力でもって一方的に押しつける悪質な犯罪と判断して、一審原告を現行犯逮捕したのであり(証人藤川)、右証人藤川の供述に加えて証人藤井、同田中の各供述並びに乙一(現行犯逮捕手続書(甲)謄本)(一審原告は、乙一には一審被告の主張とは異なる記載があることから、もともと事実上の逮捕行為が先にあり、それを後で橋本に対する暴行容疑での現行犯逮捕として描いたものにすぎない旨主張するところ、乙一には藤川において書き落としたところが窺われるものの(証人藤川)、右事実をもって、乙一が一審原告主張にかかるように、初めに事実上の逮捕行為があり、それを後で橋本に対する暴行容疑での現行犯逮捕として描いたものを証するものということはできない。)によれば、藤川が橋本に対する暴行で一審原告を逮捕したことは認めることができること、②藤川は、右同日午後五時頃一審原告を逮捕し、午後五時一分頃警察署に引致したこと、警察署司法警察員警部補小林一三が午後五時七分頃一審原告の弁解録取書を作成したこと、一審原告は警察署に引致された最初は警察署玄関から中に入ったところにあった長椅子に座らされ、その後、会議室に連行され、本件交通事故と橋本に対する暴行について事情聴取や取り調べを受け、調書を作成され、写真撮影がされ、車検証を写したりされた後、午後六時五五分に釈放されたのであるから(乙一、二、証人藤川、同藤井、同辻本、一審原告本人)、一審原告が警察署内へ連行された後、正式な逮捕をされた者としての扱いを受けていないとの一審原告の主張は採用できない。)」
3 同一四枚目裏一〇行目の「認めなかったが」を「認めなかったし、橋本から暴行の状況等について直接事情聴取したことはなかったが」と改め、同一一行目の「否定しなかった」の次に「(なお、一審被告は、藤川の質問に対し、一審原告は興奮して「それがどないしたんや、そんなこと事故と関係ないやろ。」との返答をしたこと(証人藤川、同田中)でもって、一審原告は暴行の事実を自認したことは明らかである旨主張するが、証人藤川、同田中の各証言から窺われる当時の状況や藤川と一審原告との言葉のやりとり(右返答は、一審原告が、激高して、藤川に対し、大声で怒鳴り散らすような状況のもとでなされたことが窺われる。)等に鑑みれば、一審原告の右返答から、一審原告が橋本に対する暴行の事実を明らかに自認したものと認めることはできない。)」を加える。
4 同一五枚目表四行目の次に行を改め次のとおり加える。
「4 一審被告は、警察署正門前での逮捕が準現行犯逮捕としても適法である旨主張するので、これを検討する。
(一) 刑事訴訟法二一二条二項一号について
右号にいう「犯人として追呼されているとき」とは、その者が犯人であることを明確に認識している者により、逮捕を前提とする追跡ないし呼号を受けている場合を意味するというべきところ、右二6、7のとおり、藤川は、警察署内での山口の供述と警察署正門前で一審原告が暴行の事実を否定しなかったことから、同7のとおり、右正門前で一審原告を橋本に対する暴行の現行犯人と認めて逮捕したのであって、同事実のもとでは、一審原告が藤川から犯人として追呼されていたと認めることができない。なお、一審被告は、田中が喫茶店にいる一審原告の監視を継続しており、犯人を誤認するおそれはなかった旨主張するが、田中は、一審原告が興奮して警察署から出てきて向かいの喫茶店に入ったところを目撃していたところ、藤川が来て、一審原告を見ておいて、出てきたら警察署の方へ連れてくるようにとの依頼を受けたこと、その時点で、田中は、本件で問題となっている暴行事件については一切聞いておらず、藤川の依頼の目的は交通事故の届けということと思っていたこと、田中は喫茶店にいる一審原告の様子を見ていて、一審原告が喫茶店から出てきて、警察署正門入り口の歩道のところへ来たときに、どうや少し落ち着いたかと声をかけたというのであり(証人田中)、また藤川においても田中に喫茶店に入った一審原告を見ておいて、出てきたら警察署の方へ連れてくるようにとの依頼をした時、一審原告を任意同行する予定であって、逮捕を前提としていたものではないのであるから(証人藤川)、証人田中の供述によるも、田中が本件で問題となっている暴行事件で、一審原告を逮捕することを前提として追跡ないし呼号していたと認めることができず、本件逮捕が右一号の要件を充たしたものということはできない。
(二) 同項四号について
同号は、もともとそれだけでは、罪と犯人とを結びつけるものが乏しいため、同号に該当するとして、準現行犯逮捕をするには、同項一ないし三号以上に罪を行い終わってから間がないと明らかに認められることが求められるというべきところ、右二7のとおりの経緯で、藤川は山口の報告以外に外見上犯罪のあったことを直接覚知し得る状況になかったにもかかわらず、一審原告を逮捕するに至ったのであるから、一審原告が藤川の求めた任意同行にも応じず、急に体をひねって、二、三歩後ずさりして逃走しようとしたとしても、同認定のもとでは、本件逮捕は右四号の要件を充たしたものということはできない。
以上のとおり、本件逮捕は準現行犯としての要件をも具備した適法なものであるとの一審被告の主張は採用できない。」
5 同一五枚目裏一行目冒頭から同一六枚目表三行目末尾までを次のとおり改める。
「証拠(甲一ないし三、四の1、2、五の1、2、検甲一の1ないし10、二、証人山口、一審原告本人)によれば、一審原告は、本件逮捕時において、逮捕にあたった藤川らに警察署に連行されることに抵抗し、藤川らと揉み合っているうちに、右足部に内反(足首から先を内側にねじり、足の裏が内側に向くこと)・底屈(足首から先を下げること)を強制され、右強制力によって、右踵骨の前端付近に不完全骨折が生じたこと、一審原告は、右同日午後一一時四〇分頃、河内長野市内の生登会寺元記念病院で診察を受け、右足関節捻挫、右足踵骨骨折と診断されたこと、一審原告は、右傷病の治療のため、平成五年二月二八日から同年三月一七日まで、右病院に通院して治療を受けたこと(通院実日数五日)、そのための治療費として、二万〇三四〇円を要したことを認めることができる。
一審被告は、右傷病は、当日、一審原告がしていたサッカーの練習中に生じた疑いが強いものであって、本件逮捕時に生じたものではない旨主張し、証拠(乙四の1、2、五)にはこれに副う記載がある。しかしながら、右乙四の2にも一審原告の右足踵骨骨折は右足の内反・底屈を強制されたために生じたと考えられるとしていること、一審原告は、当日午後一時から午後四時過ぎ頃まで行われたサッカーの練習中、午後三時半頃、守りの練習をしていた時に、攻めの練習をしている人がボールを持って攻撃してくるのに対し、ボールを取りに行こうと思い、少し距離があったので、勢いをつけて踏み込んで、右足を地面に衝いた時に痛みを感じたもので、その時足をひねったりしたことはないというのであり(一審原告本人)、右行為は足の内反・底屈を強制されるような、いわゆる「ぐねった」形ではなく、踵骨骨折を来す程の強い衝撃があったものとはいえず、あったとしても、高所から飛び降りて踵を地面に強く衝突させた時に通常生ずる「踵骨圧迫骨折」か「踵骨中央部骨折・踵骨平低化」の骨折タイプを示すはずで、本件のような形をとる可能性が極めて低いこと(甲五の1)、踵骨は、海綿構造部分が多く、血管に富んでいて、亀裂骨折であっても、骨皮質と骨膜の破綻した部位から骨外へ、急速に内出血が拡がるものであるところ、骨膜の痛覚は鋭敏である上、この骨折部位には長腓骨筋と短腓骨筋の抵止附着部や、踵骨と短形骨とを繋ぐ靱帯や、腓骨躁と踵骨とを繋ぐ靱帯に近いので、これらの周辺に拡がる内出血及び反応性滲出物による刺激が疼痛と運動障害を増強した結果、受傷直後から疼痛を覚え、受傷後数分間のうちには、疼痛・運動障害ともに増強していて、右足への体重過重も右足関節の運動も相当困難になり、正常に歩行ができず、少なくとも、誰の目にも明らかな跛行を呈する筈であること(甲四の2)、一審原告は、サッカーの練習終了後自動車を運転して本件交通事故現場まで来たが、その間、運転操作に支障を来すような足の異常は感じなかったこと(一審原告本人)、本件逮捕前は歩行に格別不自然な点は見られなかったが(乙一、証人橋本、同山口、同藤川)、本件逮捕後は足を引きずるような状態で歩行しており(証人橋本、同藤井、同和中善昭)、一審原告の父に対し、警察署玄関内ソファーで、右足踝下付近を見せた際、赤く腫れていたこと(検甲二、証人和中善昭、一審原告本人)、以上に照らせば、一審原告の右傷病は本件逮捕時に生じたものであると認めるのが相当であり、右傷病が当日一審原告がしていたサッカーの練習中に生じた疑いが強いものであって、本件逮捕時に生じたものではないとの一審被告の前記主張は採用できない。もっとも、一審原告は、当日午後六時五五分頃に釈放された後、すぐに病院に行かず、父親とともに橋本との示談の場所に行き、午後八時頃橋本とレストランで食事をした後、自宅に帰り、父親がテレビ局の報道部の者と電話で本件について説明をした後である同日午後一一時四〇分頃、診察のために病院に行ったとの事実が認められるが(証人和中善昭、一審原告本人)、他方、右各供述によると、一審原告の父親は、一審原告の足の痛みは命に別状がないものと考え、交通事故に関する示談及び報道機関への連絡が先であると判断したため、一審原告の病院での受診が遅れたこと、この間、一審原告は、帰宅後も足の痛みを訴えていたことも認められるから、右事実に照らせば、一審原告の病院での受診が遅れた事実も前記認定を左右するものではない。」
6 同一六枚目表五行目の「本件逮捕によって」の次に「、前記1のとおり、右足関節捻挫、右踵骨骨折の傷害を負う等して、」を加え、同八行目から九行目にかけての「過度に肉体的苦痛を与えるものではなく、逮捕の態様としては相当なものであること」を「その際、一審原告に前記のとおりの右足関節捻挫、右足踵骨骨折の傷害を負わせたものの、右傷害は藤川らが故意に負わせたものとは認め難く、本件逮捕後一審原告を警察署に連行しようとしたのに対し、一審原告がこれに抵抗したため、右抵抗を排除して一審原告を警察署に連行した際、右傷害を負わせたものであって、逮捕の態様として、格別不相当なものがあったとは認め難いこと」と、同裏二行目の「二〇万円」を「三〇万円」と、同七行目の「五万円」を「七万円」とそれぞれ改める。
二 以上によれば、一審原告の本件請求は、一審被告に対し、金三九万〇三四〇円及びこれに対する不法行為の日である平成五年二月二八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、その余は失当であるから、一審原告の本件控訴に基づき、これと異なる原判決を主文一項のとおり変更し、一審被告の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条を適用し、仮執行の宣言は相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官田畑豊 裁判官熊谷絢子 裁判官神吉正則)